私は一度死んだことがある

夫の不倫をきっかけに、いろいろな事をいろいろな角度から考える

夫がいつも不倫していた街に、夫と行った

夫と不倫相手女は、
夫が予約した常宿で会うことが多かった。

今回は私の為に、
その宿を予約してもらった。

トラウマを少しでも克服する為、
嫌いになりかけていたその街に行き、
しっかり街を味わおうと思ったのだ。

ビジネスホテルだと聞いていたが、
機能より美しさを優先した
広々としたロビーを目の当たりにし、
胸が苦しくなった。

部屋もロビーの雰囲気と同じく、
ビジネスホテルというジャンルでない、
ゆったり優しい雰囲気だ。

私の想像よりはるかに上品な所だった。

相手女は、
「いつもカレは、
こんな素敵な所をワタシの為に用意してくれる」
と思って悦に入っていたのだろうか。

その日の夕方、
仕事帰りに駅で夫と待ち合わせた。
私が先に着いた。

もうすぐ来るかなと考えた。
いつも顔を合わせている相手なのに、
外で待ち合わせると、
こんなに胸が高鳴るものかと、
新たな発見だった。

そして同時に、
不倫相手女もこんな気持ちで…
いや、不倫という弊害があるから、
私よりもっともっと胸を高鳴らせたのだろう、
と考えた。

夫だってそうだ。

自宅には日常の現実しかない。
髪の毛がボサボサで
スウェットを着たバカな妻と、
面倒でうるさい子供達。

そういう家族の相手を放棄し、
綺麗に着飾った独身女性と落ち合うのだ。

自分の現実のネットワークを無視して、
家族が知らない女に会うのだ。

とても胸を高鳴らせたに違いない。

オレは既婚者で、
今の妻とは離婚しないと言うのに、
オレから離れていかない女がいる。

そう考えると、
男としての自信が湧き出ただろう。

そこまで深く考えると、
不倫をする気持ち、
というのも分かるような気がしてきた。

現実逃避ができる。

夫と相手女は、
現実から逃げている。

自分の本当の居場所が嫌だから、
そういう人同士で結託し、
別世界に飛んでいる。

求めているのは、
違法薬物使用の効果と一緒だ。

違法薬物を使う理由は、
幸せな気持ちという擬似体験ができるから。

そして夫とその相手女は、
まさにそういう効果を得たかったのだろう。

そしてそれに依存する。
ドキドキを得たくて、
何度も何度も繰り返す。

私はひとつ謎が解けたような気がした。

同時に、
その街への恐怖心が無くなり、
私の中の小さなトラウマがひとつ消えた。